離婚の際の財産分与でローン債務者を夫とする抵当権付き不動産の分与を受けた事例

離婚の際の財産分与でローン債務者を夫とする抵当権付き不動産の分与を受けた事例

依頼者:女性
争点:慰謝料請求、財産分与

1.ご相談内容

夫が浮気をしているので離婚をしたい。慰謝料請求もしたい。財産分与として不動産が欲しいとの依頼でした。

2.解決内容

事件処理の過程
① 浮気の証拠については予め妻が入手していました。

② 夫との地道な交渉をした結果、夫は、離婚をすることを了承しました。
そして、慰謝料の支払い、及び財産分与として家を妻に引き渡すことを了承しました。
要するに夫は外で作った新しい女性と一緒になりたいので、すべてを放棄して家を出るという結果です。

③ここで、すべてを放棄するといっても、不動産は夫を債務者とする銀行ローンがまだかなり残っていました。また、その建物は新築で建てたのですが、土地は妻の実家の土地だったので売却することもできませんでした。

すなわち、妻の親としては娘が結婚をして新しい家庭を作ることに協力をするために土地を無償で貸してあげたのです。夫はローンを組んで妻の実家の土地の上に新築で建物を建てたのです。そしてこの住宅ローンの抵当権は建物に設定されましたが、当然ですが同時に土地にも共同抵当権が設定されました。妻の親は抵当権の設定にも協力したのです。

④ここで、建物の所有権につき、財産分与を原因として妻に移すにあたって、抵当権者たる銀行の了承がいるのか問題になりました。そこで念のため(法律上は当然、銀行の了承など要らないのですが)銀行に事情を話し確認を取りました。

すると債務者が変わらないし、抵当権は所有者が変更になっても存続し続けるので銀行には全く不利益はないことから所有名義の変更はできるとの返答を得られました。この点については稀にローン契約の内容によっては担保目的物の譲渡や所有名義の移転が禁じられているケースも無いわけではないようなので、契約内容がどのようになっているか、銀行によって異なる対応をしているようですから、念のため確認が必要なようです。

⑤問題は、債務者が夫のままですから、夫がローンの支払いをしなくなってしまってはせっかく財産分与としてもらった不動産が競売にかけられてしまう点です。それどころか妻の親の土地まで一括して競売にかかってしまいます。

⑥そこで、夫と妻は、夫が離婚後も毎月ローン相当額を夫名義のローン引落口座に振り込むという文言を記載した強制執行認諾文言付の公正証書を作りました。これにより、夫がローン相当額を支払わない場合には妻は、強制執行として夫の給料や預金債権を差し押さえることが出来ます。

⑦また、事実上支払いが滞れば銀行は担保目的物(=本件土地・建物)に対して強制執行をしてきますので、それを避けるために夫のローン引落口座の通帳を妻が預かるということも公正証書の文言にしました。これにより、たとえ夫が支払いをしなくなっても妻や妻の両親、子供が協力して夫名義ローンを支払ってさえいれば、銀行による強制執行を回避でき、少なくとも本件土地・建物の確保だけは出来ます。また、通帳を預かることで、通常は夫が勝手に口座からお金を引き出してしまうということも事実上防止できます。

本件では夫との交渉により離婚自体および、財産分与や慰謝料について強制執行認諾文言付の公正証書を作成しました。
離婚により夫名義で新築した建物を譲り受け、ローンは夫が支払っていくことになり妻としては住むところも確保でき実家にも迷惑をかけずに済みました。

将来的に夫がローンを支払わなくなった場合は、妻や妻の親、子供がローン分を支払うことにより競売を回避できますし、代わりに払った分は夫の財産から強制執行をして回収する余地も残すことが出来る解決となりました。

3.ポイント

夫名義の住宅ローンが残っている不動産を妻が財産分与で譲り受けるケースでしたが、夫の住宅ローンの引落口座の通帳を預かる方法は、最低でも妻側は家を失わないで済むので良い方法だと思われます。
公正証書をうまく利用して離婚後も不動産を極力失わないようにフォローできた事例です。

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弁護士 鈴木軌士

弁護士。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、離婚の解決実績を多数持つ。不動産分野にも精通しており、離婚に関する不動産問題にも詳しい。事務所には心理カウンセリングが併設されており、法的なケアと精神面のケアを行うことができる。

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