熟年離婚

50代以上の方の離婚(いわゆる熟年離婚)について

  • 離婚に関する問題点のうち、子が成人し、ないしは大学を卒業していることも多い年齢帯となることから、子に関する問題は余りクローズアップされない年齢帯となります。

すなわち、離婚に関する大きく分けて5~6個に分けられる次の問題から、(1)の親権・監護権、(2)の養育費、(6)の面接交渉権の各問題はそれ程問題とされないことが多いものと思われます。

  • 親権・監護権(子に関する事項の決定権者を夫婦のどちらにするか?)
  • 養育費養育費(親権を得られなかった親から、得た親に対する子の生活費の支払)
  • 財産分与(夫婦で築き上げた財産の清算(と扶養的財産分与)等)
  • 慰謝料(不貞やDV等があった場合の、被害者から加害者への精神的損害の賠償請求)
  • 未払婚姻費用(生活費の未払いがあった場合の支払義務者への請求)
  • 面接交渉権(親権を得られなかった親から、得た親に対する子の面接を求める権利)

50代以上の方の離婚において生じる問題点は、上記のとおり子に関する問題がない分だけ、まさに離婚に関連する財産的な面における各論点が中心になるものと言えます。以下では、熟年離婚に特に特色のある点についてのみコメントしておくことにします。

  • 熟年離婚に見受けられる特徴一般について
  • 男女に限らず、仕事や収入もいよいよ安定しているため、家庭生活にも比重を置く年齢帯ではあるが、年齢によっては、自己や配偶者の退職等にも関係して将来へ向けた不安定さも出て来ること
  • 特に女性に言えることですが、お子様の出産・育児という大仕事を終えて、人によっては人生の目的ややりがい、自身の存在意義等を見失いがちであること
  • 人によっては、組んでいた住宅ローン等を完済し終わり、ようやくマイホームに関係する負担から免れることが出来た方も多いが、建替やリフォーム等のために新たな出費が必要となることもあること
  • 生命保険も、保険料が安い掛捨型から、積立部分もある貯蓄型が増えている年齢ではあるが、年齢や保険のタイプによっては、保障の満期を迎えて保険対象から外れるようになっていることもあること
  • お子様の将来のための学資保険等もとうに満期を迎えていることがほとんどであること
  • マイホームと同様にマイカーを保有することが多いが、年齢によっては免許の返納等も考えたりと、車自体を保有しなくなる方も出て来ること
  • ほとんどの夫婦が余裕資産等として、有価証券・投資信託・不動産投資等、投資に回す資産を有するようになっていること
  • 夫婦となって25年以上も経過するために、いわゆる「倦怠期」もとうに超え、夫婦間の「すれ違い」も増え、かつ、金銭的な余裕もあることから、若いころとは違う形の不貞行為(不倫)も多い年齢帯であること
  • 長年寄り添っても双方の価値観の折り合いが付かないため、年齢の割には、夫婦間におけるDV(ドメスティック・バイオレンス)も増える年齢帯であること

個別問題の中での特徴について

親権・監護権について

お子様が20歳に達すれば、親権・監護権の対象にはなりませんので、熟年離婚の場合には、本項が問題とされることは少ないものと思われます。

養育費について

養育費も通常はお子様が20歳に達するまでが支払期間ですので、本項が問題になる場面も少ないものと思料されます。

ただし、両親が4年制大学卒業であれば、大学卒業か23歳に達するまで、医学部や大学院等)6年間通学するのであれば医学部(や大学院の修士課程)卒業(修了)か25歳に達するまで、支払うこととされる場合もあります。仮に支払義務者がこれに応じない場合でも夫婦双方の学歴等を根拠に20歳までの期間を超えて養育費の支払を家庭裁判所の審判で命じられることもあります。

財産分与について

  • 不動産について

熟年離婚の場合、自宅不動産の住宅ローンの支払が全て終わっている方もいるものと思われます。よって、財産分与も、当該不動産の売却により得られた代金から諸経費を控除後の残金を夫婦で折半するか、夫婦のどちらかが不動産の取得を望んだ場合には、取得した側は取得しなかった側に対し、離婚(正確には別居)時の査定額の半分を支払う必要が生じます。

あと、まれに裕福な方であれば投資用のマンション等を購入した方もいらっしゃるかもしれませんが、やはり事業ローンを組んで購入している方が大半だと思われ、年齢的には、そのローンの支払も既に終了している方もいるものと思われますので、分与方法等は上記自宅の場合と同様です。なお、ご夫婦の年齢が高くなる程、離婚と併せて子らへの不動産の継承等を考える方も多いです。贈与税等、税金の問題も出てきますので、必ず弁護士等専門家へご相談下さい。

  • 預貯金について

50代以上の通常のご夫婦であれば、婚姻後、少しずつでも貯蓄してきているはずですので、離婚時には、婚姻時よりも残高は相当増えているはずだと思われます。

確かに50代に至るまでの過程において出産・育児・進学といったお子様たちにかかる費用に加え、自宅やマイカーの購入など、出費はかさみますが、それでも諸外国に比べて貯蓄率の圧倒的に高い我が国の場合、少しずつでも預貯金が増えているご夫婦がほとんどではないかと思われます。

よって、婚姻時の残高と離婚時(正確には「別居時」以下、財産分与について全て同じ)の残高の差額を、離婚時には、夫婦で基本的には折半する、というのが一般的となります。

  • 保険類について

50代以上のご夫婦の場合、積立型(貯蓄型)の生命保険や学資保険のように、仮に保険契約を解約した場合には、解約返戻金が支払われるものが相当増えてきて、かつその解約返戻金も多額に上るようになるものと思われます。そこで、このようなものについては、婚姻時の解約返戻金額と離婚(別居)時の解約返戻金額との差額を夫婦で基本的には折半する、というのが一般的となります。なお、解約返戻金をいわば担保に生命保険会社等から借り入れをしていた場合には、当然ですが、その借入金と利息を控除した解約返戻金残額が、上記分与の対象となります。

但し、この借入金を、例えば夫が、専ら自己のみのために費消してしまったような場合には、財産分与時に調整(実質的には「弁償」という)が必要となる場合があります。

  • 株式等有価証券について

50代以上のご夫婦の場合、ご夫婦の経済状態にもよりますが、余裕資産を、将来への利殖のために株式や投資信託等の有価証券類へ、既に投資している方々も多いものと思われます。これらの資産についても、上記③と同様に、総じて「婚姻時の(時価)金額と離婚(別居)時の(時価)金額との差額を、夫婦で基本的には折半する、というのが一般的となります。

  • 自動車について

50代以上のご夫婦の場合、マイカーを所有していることも多いものと思われます。

自動車の場合も、①の住宅の場合と同様、離婚(別居)時の査定額を折半するのが通常の夫婦間での財産分与となります。但し、住宅以上に、免許を返納でもしていない限り、夫婦のどちらか一方が取得を希望するケースも多くなるものと思われますので、その場合には、本来売却したら手に出来ていたであろう上記査定額(カーローンがある場合にはローン残高を控除した残額)の半分を、自動車を取得する側が取得しない側に支払う必要が出ます。

  • 家財道具等の動産類について

50代以上のご夫婦の場合、数十年に亘っての家財道具等動産類が自宅等にあるのが通常と思われます。しかし、離婚の場面に限らず、このような家財の動産類は、財産的価値としてはわずかなことがほとんどです。これに対し富裕層の方がお持ちの貴金属や宝石類、高級時計等や絵画・骨董品等及び高級家具類は、ものによっては鑑定等評価額がかなり高額なものもあります。長年愛用してきていて、それなりに価値がありそうな動産類については、一度、是非鑑定等をして、そのものの正確な価値を把握した上で、夫婦共有財産であるならば、財産分与の対象にして下さい。

  • 将来の財産(退職金や年金等)について

50代以上のご夫婦の場合、退職金については、退職時まで残り多くても15年程度ということがほとんどと思われます。よって、離婚時の直後に退職ということではなくても、退職がより具体的に迫ってきていることになるものと思われます。

このような場合、一般の民間企業にお勤めの方の場合でも、退職時までにその企業が存続している可能性は高いという判断になるケースがほとんどと思われますので、離婚時に財産分与の対象になるという判断になることが多いものと思われます。特に公務員等の場合には、退職時まで勤め先が存続していることが通常でしょうから、将来支払われるであろう退職金は、離婚時の財産分与の対象とされることが当然です。

しかし、仮に財産分与の対象とされても、金額は、退職金の積立期間(=通常は勤続年数)に占める婚姻期間で按分され、それを通常の夫婦の場合折半ということになります。かつ、分与時期は、他の金融資産も多くあり離婚時の財産分与時にその中で調整可能な場合以外は退職金の受給時とされることが多いものと思われますが、熟年離婚の場合には退職時までの年数も比較的短いため、受給時に分与でも、それ程問題はないことが多いです。

また、年金については、年金事務所等から、年金情報通知書というものを受領し、そこに記載されている年金中の報酬比例部分について、夫婦双方、通常0.5の割合(=折半)で年金分割する、という内容になります。

年金も退職金も、特に50代以上の夫婦については、通常、財産分与の対象になるものと思われますので弁護士等にご相談下さい。

慰謝料について

50代以上のご夫婦の場合、上記特色のとおり、不貞やDVもある程度あり得ます。配偶者が不貞行為(不倫)をしたりDVをした場合には、された側(被害者)は、した側(加害者)に対し慰謝料請求をすることができます。

慰謝料の金額は、主として、した行為の内容・生じた結果、夫婦双方の収入や経済状況等を総合的に考慮して決められます。金額のみを単純に決められるものでもありませんので、一度弁護士にご相談下さい。

未払婚姻費用について

50代以上のご夫婦の場合、双方働いて収入もあることがほとんどでしょうから、婚姻費用、いわゆる生活費もきちんと支払われているケースがほとんどだと思われます。

しかし、例えば別居期間が長くなった夫婦のような場合には、婚姻費用が支払われずに、離婚時の未払婚姻費用が多額になることもあり得ます。未払婚姻費用が具体的にいくらになるのかについても、養育費と同様に、夫婦双方の年収と子の数と年齢に応じて算定表等によって決められます。養育費との違いは、例えば受領者が妻の場合に、妻一人分の生活費も、養育費と異なり婚姻費用には含まれる、という点です。特に50代以上の熟年離婚の場合には、既に子は成人等していることが多いでしょうから、婚姻費用について、妻のみの分になることが多いものと思われます。年収が多額の方は支払うべき婚姻費用も多額となり得ますので、金額については、一度弁護士にご相談下さい。

面接交渉権について

50代以上のご夫婦のお子様は20歳以上であることも多く、親権・監護権の対象となるのは20歳(但し、改正民法の令和4年4月1日の施行後は18歳(民法4条))までですから、20歳(令和4年4月1日以降は18歳)以上の子については、そもそも面接交渉権の対象にはなりません。

そうすると、50代以上のご夫婦の場合には、子との面接交渉について、そもそも問題になること自体、かなり少なくなるものと思われます。

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弁護士 鈴木軌士

弁護士。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、離婚の解決実績を多数持つ。不動産分野にも精通しており、離婚に関する不動産問題にも詳しい。事務所には心理カウンセリングが併設されており、法的なケアと精神面のケアを行うことができる。

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